2 風早くんの思惑
で、合コン当日になった。
男同士で飲みに行くのは好きだけど
女子が同席する飲み会はなんか居心地が悪い。
別にいい男ぶってるとかじゃないんだけど
割と初対面の女子に気に入られやすいんだ。
野球部は結構忙しいから彼女のいないやつが多いし、
合コンとかあんまり企画されないから
この話を聞いて参加したいというやつは多かった。
女子は田中が頑張って集めてくれたらしいけど
5人で精一杯だったそうだ。
俺と菅原の他には3人しかいけないことになって
盛大にじゃんけん大会となった。
俺の席を譲りたかったが、俺の参加が条件なんだから仕方ない。
そのことは他のメンバーには内緒にしたから
この合コンが俺と菅原の企画ってことになってて
俺、彼女作る気満々みたいになってるが・・・まあいっか。
カラオケボックスに入って適当に男子と女子で対面に座る。
俺の前が田中になってしまいそうだったんで
「早速だけど俺トイレ行ってくる。」と席を立って
うまい具合に田中の前を菅原にした。
戻ってくると4対4でガッチリ固まって盛り上がっている。
というか俺のチームメイトたちが必死に固めた感がアリアリだ。
菅原もしっかり田中を捕まえて頑張ってるみたいだ、よかった。
端っこの席には今時珍しい真っ黒で真っ直ぐな髪の娘が
ドリンクメニューを見て固まっていた。
俺がいなかったから一人あぶれたみたいになってる。
可哀想なことしたなと思って
「決めらんないの?」と声を掛けると
驚いたように大きな目で俺をしばらく見つめて
「あ、あ、あ、あの・・・
お店でお酒飲むの初めてで、何を頼めばいいのか・・・。」
と顔を伏せた。
「そうなんだ。じゃあチューハイとかが飲みやすいんじゃないかな?」
と言いながら、メニューのチューハイが載ってるあたりを指さして
「このへん。」と丸く囲ってみせる。
「あ、色んな味のがあるんですね・・・。」と悩んでる様子。
「みんなはもう頼んだのかな?」と訊けば
「あ、はい。後は私とあなただけです。」と答えた。
他の女子はすでに血走った目の俺のチームメイトの質問攻めにあっていて
この娘が決められずに居るのにフォローできなかったんだろう。
全く困った奴らだ。
『あなた』と呼ばれるのはなんかくすぐったいので
彼女に自己紹介して、彼女の名前も教えてもらった。
彼女は黒沼爽子と言うそうだ。
同じ大学とは言え学科が違うので初めて会った。
真面目そうで好感が持てる娘だ。
グイグイ来ないので黒沼と話すのは心地いい。
黒沼があぶれてくれててよかったと思う。
「決まった?俺のと一緒に注文しよっか?」と黒沼に言うと、
「ありがとうございます。
ではチューハイのグレープフルーツをお願いできますでしょうか。」
って言ったから、インターホンで俺のビールと一緒に頼んだ。
「合コンにはよく参加するの?」と訊いてみた。
なんていうか、黒沼と合コンというのがなんかしっくりこない気がして。
「いえ、それも今日が初めてで、なんかこの場に全然馴染めてなくて
困ったなと思っていたんです。このままだったら困るなと思ってたら
風早くんが戻ってきてくれて、話しかけてくれてほんとに嬉しかったです。
ありがとう。」
と言ってほんとに嬉しそうに笑った。
・・・その笑顔から目が離せなくなった。
って言ってもそんないつまでも笑ってたわけじゃない。
せいぜい5秒ってとこだろうか・・・。
女の子の笑顔が可愛いと思ったことがないわけじゃないけど
なんか黒沼の笑顔は特別な感じがした。
・・・他の女子みたいに作り笑いじゃないからかもしれない。
初めて会う女子はだいたい目が合うとニコニコと笑う。
そーゆーもんなんだろうけど
ほんとに嬉しくて笑ってんだろなって笑顔とは比べ物にならないんだな。
もっと彼女の笑顔が見たいと思った。
そもそも合コンに参加するのも2,3回目なんだけど
かつて俺がこんなに積極的に女の子に話しかけたことが有っただろうか?
いやある訳がない、間違いない。
なんでかって言ったらそれはもう
いままでの相手が黒沼じゃなかったからだろう。
まだ出会って一時間足らずだって言うのに
俺は黒沼とこの場限りになるのは嫌だなと思い始めていた。
同じ大学だと言う以外何も知らないから
とりあえず思いつくことを片っ端から聞いてみる。
ああ、これってチームメイトが他の娘にやってた
質問攻めと一緒だなと思って苦笑する。
なるほどなんとかお近づきになるにはそうせざるを得ないんだな。
俺も困った奴らの仲間入りってわけだ。
色々訊いてたら意外なことがわかった。
「え!?実家は北幌なの?・・・俺もなんだけど。」
「北幌高校出身なんです。風早くんもですよね?
実は私、風早くんのこと知ってたんです。
だから初めて会ったときびっくりして・・・。」
「・・・ええっ、マジで!?
でも同じクラスになったことないよな?
クラス違うのになんで俺のこと知ってるの?」
「あ、だって風早くんは有名だったし、
それに私、ちづちゃんと友達だから・・・。」
「吉田と友達だったの!?ってか、俺、有名!?」
「同じ学年で風早くんのこと知らない人なんていないと思います。
私はなかなか人と仲良くなれないので
いつも人の輪の中にいる風早くんに・・・憧れてました。」
そう言ってまた可愛く笑った。
憧れてって言ったよな。
俺に憧れてたって・・・。
それって・・・俺のこと好きだったって思っていいのかな?
そうだといいなあ・・・。
少なくとも悪い印象は持たれてないっぽい。
黒沼は最初に頼んだチューハイを時間をかけて飲み干して
たった一杯のチューハイで顔を真赤にして
目がとろんとなって眠そうにしている。
外で飲むのは初めてだと言ってたけどかなり酒に弱いみたいだ。
そんなとこも可愛いなあ。
可愛いんだけど、この状態で一人で家に帰るとか危なすぎるよな。
これ以上ここに居るのも無理そうだし、
俺は黒沼とこれっきりになりたくないんだから、
送っていくしかないだろう!!
「黒沼、ちょっと酔ってるみたいだし送っていくよ。」と言えば
「え!いやいやそんな、大丈夫です!一人で帰れます!!
風早くんせっかく合コンなのに!!」と的はずれな遠慮をする。
「俺、黒沼と二人で抜けたいんだけどダメ?」って訊いたら
「二人で抜ける・・・って?」とわけがわからないという顔をする。
財布から二人分の会費を出してテーブルに置いて
「黒沼、酔ったみたいだから俺、送っていくわ!」とみんなに言ったら
「えっっ!?爽子、大丈夫!?」と隣の女子が今更ながら心配した。
「ちゃんと送り届けるから安心して!行くよ、黒沼!!」と言って
黒沼の手をとって立ち上がらせて鞄を持った。
「は、はい!」と黒沼がついてきてくれた。
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