2 彼女は俺の魂を貰いに来たって言うんだ。
長い黒髪に黒い服を着た、一見同年代の女の子に見えるその彼女は
「驚かれるのも当然ですが、落ち着いて私の話を聞いてください。」と
ローテーブルの自分の向いをさして、
「どうぞお座りになって。」と言った。
彼女に落ち着いてと言われて落ち着き始めた自分に
自分はこんなに素直だっただろうかと思いながら
勧められた場所に座る。
俺が座るのを見て彼女が自己紹介を始めた。
「あらためて、初めまして。私、黒沼爽子と申します。
まだ半人前の悪魔ですが、怪しいものではございません。」
悪魔が怪しくなくて、何が怪しいというのだろうか・・・
でも俺はどういうわけか彼女の話をきちんと聞いてあげたいと思った。
「風早さんのことは約1年前にもらった適合者ファイルで知りました。
およそ30名ほどのファイルを貰ったのですが、
殆どの方がこの一年間に不適合になられて、
実は風早さんは私のファイルの最後のお一人だったんです。
清いままでいてくださって、本当にありがとうございます。」
「俺が一体何に適合したっていうんですか、黒沼さん。」
「条件は割と簡単なのですが、
『20歳の日本在住の一人暮らしの清らかな男性』です。」
「『清らか』って何を基準に清らかとかそうじゃないとか決めるの?」
「わかりやすく言うと童貞ということです。」にっこり笑って即答された。
清楚な佇まいの彼女からそんな言葉を聞くとは思わなくて・・・
「ど・・・ど・・・」って吃ってしまった。
「あ、分かりませんか?女性とせ・・・」とか説明を始めようとする。
「いやいやいや!説明はいりません!分かります!
ただ、その言葉はあなたのような女性が口にするのはどうかと思って。」
「あ、不快に思われたのなら申し訳ありません。
風早さんが口にするなとおっしゃるのなら二度と申しませんので!
そんな訳で適合者の風早さんが20歳のお誕生日を迎えられた、今日、
お邪魔させていただいたわけです。
まずはお誕生日をお祝いしたいのですが、よろしいですか?」
「えっ!?ああ、ありがとうございます。」
「あっ・・・事後報告で申し訳ないのですが、このケーキを焼くにあたり
こちらの電子レンジが単機能電子レンジだったので、
オーブン機能付きに変えさせていただきました。
差し障りがあるようでしたら元に戻させていただきますが・・・」
「変えた・・・って、買い替えたってことですか?」
「魔力で少し機能を付加させていただいたのです。」
「魔力って、魔法?魔法使えんの・・・いや、使えるんですか?」
「そんな大したことはできないんですけどもね・・・
あ、私のことは召使とでも思っていただいて、
敬語で話していただかなくていいですよ。」
「じゃあ、黒沼さんも敬語やめてよ。そのほうが話しやすいしさ。
それと、電子レンジはそのままで問題ないよ。」
そう言いながら、単機能電子レンジをオーブン機能付きに変えるくらいなら
ケーキそのものを出したほうが簡単なんじゃないんだろうか?とか、
でも、黒沼さんが作ってくれたっていうのがなんか嬉しいよなとか
・・・俺は何考えてんだろう。
こんな突拍子もない話に、俺、なんでこんなに馴染んでるんだろう。
なぜだか俺はこの黒沼さんと話すのが心地よくて仕方ない。
こんなことは初めてで、よくわからないんだけど、
この悪魔で魔法も使えるという同い年位の、
言ってみれば胡散臭さ100%のこの女の子を
どういう訳だか俺は全面的に受け入れていた。
ケーキを切り分けてもらって、コーヒーも入れてくれて
こんな誕生日を過ごすとは思ってもいなかったので
多分俺はかなり浮かれてる。
「風早さんのこともっと知りたいです。」なんて言ってくれるので
俺の最近の暮らしぶりなんかを話すと、
嬉しそうな顔で時々相槌を打ちながら聞いてくれる。
なんだろうこのくすぐったいような空間は、いや俺の部屋なんだけど。
ちょっと待てよ・・・
なんか楽しくて忘れてたけど、肝心なこと訊いてないんじゃないだろうか?
「あのさ、黒沼さん・・・」
「はい?」
「その・・・適合者?の俺のとこへ、黒沼さんは何しに来たわけ?」
「私もどんな人だろうって不安もあったんだけど、
風早さんがいい人でよかった!
私に振り分けられたのが風早さんで嬉しいです!
当分こちらでご厄介になるので、
もちろん自分のことは自分でしますし、
お料理も勉強してきたので風早さんのご飯も作るね!」
「ち、ちょっと待って!それってここに住むってこと?!
この狭い部屋に?俺と一緒に?」
「・・・やっぱり迷惑ですか?
風早さんが嫌なことはしないようにするし、
居ないほうがいい時には消えることもできます。
風早さんの言う通りにするので、置いてもらえませんか?」
思わず「全然いいよ!」って言いそうになるが、落ち着け俺。
「最終的な目的はなんなの?一緒に住むのが目的じゃないんでしょ?」
「出来れば私に心を開いてもらって、
あなたの魂を頂ければと思っています。」
黒沼さんはにっこり笑って言った。
あああ、そうだ、うっかり忘れるところだった!!
彼女は悪魔、そう、悪魔だった!
どんなに可愛くても、悪魔だったんだ!!
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