8 『好き』をこじらせて、バイトもやめて、もっと一緒にいることにした。
ひと月後、俺達は同棲を始めた、ということにした。
さすがに付き合って直ぐ同棲するのは不自然だろうと、
ひと月置いたんだけど、俺の道徳観念から言うと
付き合ってひと月で一緒に住むとか早過ぎると思う。
っていうより、一緒に住むのは結婚してからだと思う。
まあ、爽子とは最初から一緒に住んでるといえば住んでるんだけど。
そんな本来の道徳観念などかなぐり捨てて
『俺が爽子を好きすぎて、
どうしても片時も離れていたくないから
一緒に住んでほしいと、押して押して押しまくって
やっとのことで一緒に住むことが叶った。』
そういうことにした。
付き合い始めたといった時、
「ほーら、やっぱり風早を好きにならない娘なんていなかったんだよ!」
なんて、我が意を得たりって顔してた友人も、
ひと月で同棲することにしたと言ったら、さすがに引いた。
「同棲するなんておまえのキャラじゃない!」とさんざん言われた。
まあ、普通なら絶対同棲なんてしないと思うから、
友人の俺への認識はかなり的を射ているんだけど、
この際そんなことはどうでもいい。
とりあえず俺と爽子の、同棲してる恋人同士と言う関係が
出来上がって、俺としては大満足だ。
予想してたことだけど、
「そんなにいい娘なのか?一度会わせろ!」
と友人たちには散々言われた。
「もったいないから絶対会わせない!!
俺達のことは一切詮索するな!!」
と言い続けてきたら、このひと月で
友人たちは彼らの中の俺の人間性を綺麗に上書きしてくれたようだ。
「女に骨抜きにされた残念なやつ」
それが今の俺、そう思ってくれて全然構わない。
爽子に関してはあながち間違いでもないよなって思うし。
俺って初めて会った時からなぜだか爽子が大好きだった。
自分でもビックリするくらいいきなり大好きだった。
何処がどう好きなのか自分でもわからないけど大好きだった。
自分から好きになるのが初めてだとはいえ、
このいきなりMAXレベルに達してしまうのは異常じゃないのかと
さすがに自分でも思ってしまったくらいに。
だから余計に、ちょっと時間が経てば
少しは落ち着くんじゃないかと思ってた。
MAXになったら後は落ちるしか無いだろうと。
だけど、ひと月経って分かったことがある。
MAXだと思っていたのは間違いだった。
まだまだ好きになれるみたいだ。
もしかすると好きになるのに上限なんて無いのかもしれない。
大学に行ってバイトして、ってしてると、
一緒に暮らしていても爽子と一緒の時間は凄く少ない。
バイトが有る日は俺が帰るのは九時半ごろだ。
深夜バイトがある時は十時半頃また家を出る。
爽子は11時には「おやすみなさい。」とあの鳩時計に入ってしまうから、
深夜バイトから帰ると爽子はもういない。
バイトのない日は少し長く一緒に居られるけど、週に2日だけだ。
大学がない日も週に2日あるんだけど、その日はバイトが有る。
要するに、朝から晩まで一緒に居られる日はないんだ。
俺はもっともっと爽子と一緒にいたい。
とりあえず俺が20歳の間は一緒に居られる。
でも、その先は・・・爽子が人間になったとしても
一緒に居られるかどうかわからない。
だって、俺と一緒にいる理由がないんだから。
だから、今は精一杯一緒にいたい。
そんな訳で俺は夕方のバイトを辞めることにした。
この一年間だけなら去年馬鹿みたいにバイトしてためた貯金と
深夜バイトの給料だけで生活できそうだし。
去年はバイトが思いのほか楽しくて、状況が許す限りバイトをしてた。
そのバイトが今は、爽子と一緒にいる為には
邪魔なだけのものになってしまった。
バイトを辞めると爽子に言ったら手放しで喜んでくれた。
「翔太くんと一緒に居れる時間が増えるの、嬉しいよ!!」
うん、そう言ってくれて俺も嬉しい・・・
でも、それって魂奪いやすくなるからだよねって思うと素直に喜べない。
「あ、それにね、この試練を初めてひと月経ったから
生活費の支給があるの、魔界から。」
「え?生活費支給されるの?魔界から・・・どうやって?」
「コンビニのATMで引き出せるよ。十分な額かはわからないけどね。」
コンビニのATMで?振り込まれてるの?口座に?意外だな、魔界・・・
・・・この試練って爽子にとってある意味、仕事だったのか?
「生活費を折半に出来るだけ貰えるかわからないけど、
私にも生活費出させてね。」
爽子って真面目だもんな、本当の恋人ならまだしも、
そういうわけじゃない男に養ってもらう訳にはいかないってことかな・・・
「・・・翔太くん?元気ないね。大丈夫?」
「元気だよ!大丈夫!!
・・・爽子の生活費、別に貰わなくても大丈夫なんだけど・・・」
「ううん!貰ってください!!
翔太くんには迷惑ばっかりかけてるから、少しでもお返ししたいし!」
「迷惑じゃないよ!爽子がここにいることは全然迷惑なんかじゃない!」
「・・・ほんとに翔太くんは優しいね。
悪魔の私にそんなこと言ってくれるなんて。」
「別に優しいとかじゃないよ。ホントのことだから。」
「あの・・・バイト無くなったら・・・毎日、一緒にお買い物行けるのかな?」
「うん、もちろん!・・・今のシフトの残りが二週間ほどあるけど
それが終わったら、毎日いっしょに買い物行こう!」
「うわ~、うれしいなぁ~・・・」
「あ・・・でも、悪いんだけど・・・パーカーのフードかぶって、
ちょっと大きめの眼鏡かサングラスかけて行ってくれる?」
「え?そういうファッションが翔太くんの好みなの?」
「いや、そうじゃなくて・・・また友達が
こっそり見に来たりするかもしんないから・・・」
「あ・・・そうだよね。同棲したくなっちゃう彼女には見えないよね、私。」
「そんなことないよ!違うからね!
勿体無いからさ!俺の友達なんかに見せるの!
うっかり爽子のこと好きになられたりとかしても困るし!!」
「そんなことあるわけ無いよ~!!」
「あるよ!俺、初めて会ってすぐ爽子のこと好きになったんだから!!」
「そんなこと・・・」
爽子が頬染めてうつむいた。
まるで爽子も俺を好きみたいに。
「そんなことあるわけ無いよ。
私が悪魔だって知ってるのに本当に好きになるなんて。」
うん、多分そう思ってるんだろうなあと思ってたよ。
悪魔だってこと、隠して俺と出逢ってたら
ほんとうに好きなんだと思ってくれたかもしれないけど
悪魔だって分かったら嫌われるんだと思うんだろうな、爽子は。
「爽子が悪魔だって知ってるけど、本当に好きなんだ。大好きなんだ。
そうじゃなけりゃ、こんなにこの試練のために協力しないよ。
合格して、人間になって、爽子も俺のこと
好きになってくれたらいいなって思ってるよ!」
「・・・あ、ありがとう、翔太くん。そんなふうに言ってくれて。
ホントに翔太くんは優しいね。」
違うんだって!優しいから好きだと言ってるんじゃないんだってば!
一体なんて言ったらこの気持が爽子に伝わるんだろう。
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