12 お風呂に入って隣で眠る、そんな普通の大好きな女の子
いつものように風呂に入って部屋に戻ると、こたつが部屋の隅に追いやられて
ふたつの布団が思いの外ピッタリと寄り添うように敷かれていた。
風呂あがりでほてった顔が更に熱を持つ。
これは視覚的に結構クル。
俺の頭が下心満載だからだ。
黒沼にしたらきっとなんてことないことなんだ。
だってほら、黒沼は平然と寝間着の浴衣みたいなのに着替えて
布団の上に座って俺を待ってる。
「あああ、あの、黒沼はお風呂は?」
「あ、私は風早くんが学校に行っている間に頂きました。」
「そろそろ気温も高くなってきたし、寝る前に入ったほうがさっぱりするんじゃない?」
「なるほど、そういうものですか・・・」
「もう一度さっと流すだけでもどう?」
「・・・じゃあ、そうさせてもらいますね。」
黒沼が風呂に向かうのを見送って「はあーっ」と溜息を付く。
よくドラマなんかでホテルに入った男女が「シャワー浴びてきなよ」とかって
会話したりするけど、俺が黒沼に風呂を勧めたのはなんか似てるようで全く違う。
たぶん今まで、食事の必要もないなら風呂だって必要なかったんだろう。
でもいきなり身体が実体化してしまって、そうなるとやっぱり風呂に入る
必要があるだろうし、それに黒沼は気付いてるだろうかって思ったに過ぎない。
気持ち悪かったんだろう、自主的に風呂に入ったんだから、
その必要性を感じたんだろうなあ。
黒沼のことを俺が心配する必要なんてないのかもしれない。
えーと、だから、風呂を勧めたのに
けして男女の営みの前準備的な意味合いなどないんだ。
そりゃあ俺はしっかり黒沼を女の子として好きだけど
黒沼って・・・なんとなくだけど、俺のこと出来の悪い息子みたいに
思ってんじゃないかって時々思うんだよね。
それにさ、布団の上にちょこんと座ってる黒沼の隣の布団に行って、
「じゃあ寝ようか。」とか、言えねえよ!
俺の方は意識しまくりなんだから!
だから、黒沼が風呂に行ってる間に布団に潜り込んで寝ちまおうって、
まあ、姑息な手段に出たわけですよ、悪いか!
とっとと寝ちまえればいいんだけど、全然眠れる気がしない。
普段から和服だから、寝る時は浴衣みたいなのなんだなあ・・・
パジャマなんかより断然色っぽいなあ・・・
きっと黒沼ならパジャマ姿も可愛いと思うけど・・・
って、こんなこと考えてて眠れるわけがない!!
あ、そうだ、パジャマよりも洋服いるよなあ。
洋服姿の黒沼、可愛かったなあ。
とても俺の服を着てるとは思えない可愛さだった!
うん、何気にスタイルいいから何着ても似合うと思う。
雰囲気的にパンツスタイルよりスカートのほうが似合いそうだ。
プレゼントしたいのはヤマヤマだけど・・・
悲しいかな先立つモノが・・・
洋服って結構するよなあ・・・
バイトの給料日までまだちょっとあるし・・・
まあ部屋の中なら今までどおり和服でもいいんだけど
折角外に出られるようになったんだから
色んなとこ連れて行ってあげたい!
あー、でも服がなあ・・・俺の服じゃあなあ・・・
って、つらつら考え事してたら
なんかいい匂いがしてきて
「風早くん・・・」って呼ばれたもんだから思わず振り返ったら
そこには湯上がりの黒沼がいておもいっきりバチッと目が合った。
「ぐ・・・わっ!!くろぬ・・・ま・・・」って何言ってんだ、俺!
わー、もう、とっとと寝るつもりが、寝れないなら寝たフリするつもりが・・・
目、合っちゃったからもう今更寝たフリできないよ・・・
ってか、目が離せない・・・黒沼の顔、湯上がりでいつにもまして綺麗で可愛い・・・
・・・そして物凄く近い・・・
黒沼の風呂あがり、想像以上の破壊力・・・
めっちゃいい匂いするし・・・
いや、でも、これ・・・いつも俺が使ってる安物のリンスインシャンプーの匂いだよな。
たぶん俺の頭からも同じ匂いしてるはずなんだけど・・・
なんで黒沼の髪から香るとこんないい匂いなんだ・・・
単に長いからとかそんな単純な問題じゃないよな、きっと・・・
あーもー、顔熱い!見なくても分かる、絶対真っ赤だよ、恥ずかしい!!
「・・・よかった。もう寝ちゃったのかと思った・・・
初めて一緒に寝るのに、風早くん先に寝てたら寂しいなとか思って・・・
あ、今日だけだよ!
いつも私が来るのを起きて待っててとか、そんなんじゃないよ・・・」
そんな可愛いこと、そんな可愛い顔で、こんな直ぐ手が届いちゃう距離で・・・
あー・・・もう、降参だ・・・
もう隠してるなんて無理だ・・・
だって、ほら、勝手に俺の口から漏れでちゃってる・・・
「俺、黒沼が好きだ。大好きだ。
俺にとって黒沼は普通に女の子だよ。
離れたくない、特別に大好きな女の子だよ・・・」
するっと布団から出て、直ぐ側に居る黒沼をかき抱く。
黒沼が息を飲む気配がする。
黒沼の肩に顔を乗せれば鼻先が髪に埋もれて更に香る。
黒沼に酔わされるみたいだ・・・
背中に回した腕をさらにちょっと狭めたら
黒沼がしゃくりあげたのが分かって一気に正気に戻る。
「え!?な、な、泣いてるの!?ゴ、ゴ、ゴメン!!
勝手なこと言って、勝手にギュッてして、嫌だったよな、ゴメン!!」
そう言って慌てて身体を離して、黒沼の顔を覗きこめばやっぱり泣いてて・・・
泣くほど嫌だったんだと思ったら、貧血で倒れるかと思うくらい
俺の頭から血液が急降下していった。
もしかしたら、口から魂出て行っちゃたんじゃない?
「ちがうよ・・・これはね、きっと、嬉し涙って言うんだと思う・・・」
「へっ!?・・・嬉し涙・・・?嬉しい・・・!?」
「風早くんのこと・・・根本的に私とは違うんだから
そんなふうに思っても仕方ないんだって思ってた。
そんなふうに思わないようにしようって思ってた。
でも、どうしても・・・
好きなの・・・好きなの・・・・・すき・・・」
「 ・・・ほんとに・・・・? 」
「 うん・・・・ 」
もう一度ギュって抱きしめて、
今度は黒沼も俺の背中に手を回してキュって抱きついてくれて・・・
俺もちょっと泣きそうになった・・・
抱き合ったまま一つの布団に入って、
「今日、このまま眠りたい。」って言ったら、
「うん。私も・・・」って言ってくれた。
しばらくしたら黒沼から健やかな寝息が聞こえてきて
まさかこんなふうに思いが通じるなんて思いもしなかったなあとか、
俺の腕の中に幸せそうに眠る黒沼がいることが幸せだなあとか、
そんなことを思いながら、
俺は到底眠ることなんて無理で、
ずっと一晩中黒沼の寝顔を見てた。
黒沼は俺にとって普通に女の子だけど、
家を栄えさせる力はずっと健在なようで
後で家主さんに聞いた話ではこのメゾン荒井の住人は
宝くじを買えば買った金額の1~100倍が当たるというんだ。
大当たりはしないけど損もしない、結構凄いことだと思う。
家主さんが妙に黒沼を大事にする理由はコレかってちょっと納得した。
で、折角だから俺達も300円分、スクラッチを買ってみた。
そしたら、なんと、一万円当たったんだ!
それでなんとか黒沼の服も買えた・・・ってのは
また別のお話・・・・
おしまい
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