4 告白
今日から一泊二日で新入生オリエンテーションだ。
要するに今後の高校生活を楽しく実りあるものにするのが目的の行事だ。
新しい仲間や新しい生活に慣れて充実した日々を過ごせるようにっていう、
まあ半分お遊びのような行事ではある。
社会人になってみれば、高校の行事なんてどれもまあお遊びみたいなもんだけど。
その中でもこのオリエンテーションは、学校祭とかと違って
『何かを創りあげなきゃ。』みたいなのもなく、参加さえすればいいんだから
生徒も気楽だろう。
全員連れて行って連れて帰ってくればOKって感じなんだけど、
二日間、気が抜けないってのはそれなりに大変だ。
でも、行事の進行とかは学年主任の先生とかがやってくれるから、
その先生方に比べれば全然楽なもんだ。
夕食が済んで、クラスごとに時間を区切って入浴だ。
入浴時間にあたっていないクラスの生徒はそれぞれ自由時間を過ごしている。
売店とかを行き来する生徒たちをロビーの端のソファから見るともなしに見ていると
「風早先生、お話があるんですが・・・」と一人の女生徒が俺の所にやって来た。
D組の生徒じゃないな。
この娘は・・・確か委員長会議で見たことがある気がする。
「え?俺に?」
「はい・・・お時間大丈夫でしょうか・・・」
「ここで聞ける話なら聞くけど。」
俺の言葉を受けて、周りを見回し、視界に入る所に生徒はいるが
話を聞かれるほど近くもないと判断したようで、「ここで結構です。」と言う。
「じゃあ・・・なに?」と問いかければ、
「あの・・・」と両手を組んだり離したりしてモジモジしながら、
顔がみるみる真っ赤になっていく。
『あ、マズイ!これ告白だ!!』と思った。
今はこんなしがない教師だが、中高大と結構な人数に
俺はこの告白っていうのをされている。
だからこの感じはそれだとわかったのに・・・
「私、風早先生が好きなんです。」
余程思いつめていたのか、止めるまもなく一気に告げられた。
だけどまだ入学してひと月足らずだってのに・・・
相当思い込みの激しい生徒なのかもしれない。
きっちりしっかり諦めてもらっておかなくては・・・
「好きになってくれるのは嬉しいけど、
俺は教師で君は生徒だから
君の気持ちに応えるつもりは全くない。」
「あのっ・・・私が卒業してここの生徒でなくなったら応えてくれますか?」
「俺は君の話を聞かなかったことにする。
ズルいと思うなら、ズルい酷い男だと思ってくれて構わない。
君を俺のことを好きな娘だとかそんなふうに特別に見たりもしない。
他の生徒と全く同じに扱う。
告白してもらったんだから他の女性と付き合わないだとか、
そんな義理立てをするつもりも毛頭ない。
たかだかひと月足らずで俺の何を知って
どこを気に入ったんだか知らないが
もっと周りに目を向けろ。
俺みたいなオッサンよりいい男はいくらでもいる。
再度言うが、君に応えるつもりは全くないから諦めてくれ。」
「そ、そんな!!私は風早先生がっ・・・」
「俺は諦めろと言ってる。さっさと仲間んとこに戻れ。」
彼女は俯いてなんか堪えてるふうなので、
泣かれだしたりでもしたら面倒だから
さっさと俺の方からその場を離れた。
とことん酷いやつだと思われた方がいい。
彼女を少し可哀相だと思うんだけど、
ここで情けをかけて少しでも良い奴だと思われては
後が面倒なのは経験済みだ。
あの女生徒、A組の副委員長だったかな・・・
名前は・・・なんだっけ、「山本」だったような?
今後極力接触を避けるべき生徒として覚えておこう。
周りに話を耳にした生徒はいなさそうだったし、
山本がこんなこっぴどく振られた話を
自分から周りに話すことはないだろう。
そう判断した自分を、翌朝ひどく呪うハメになる。
「翔太!!お前何やったんだ!?なんか噂んなってんぞ!!」
同室のピンが朝早くから部屋を出て行ったと思ったら
ビールを手に帰ってきて俺に言った。
歯磨きの途中だった俺は、うっかり歯磨き粉を飲み込みそうになって咳き込んだ。
まさかと思っていたが、心当たりと言ったら「山本」の件しかない。
「えっと・・・噂って、どういう?」
「おまえ、生徒を振ったんだってな。」
「うん、まあ・・・そういうことになるかな・・・」
「なんかちょっと面倒くさい奴だったみたいだぞ・・・
『告白され慣れしてて、断り慣れてる』とか
『教師だから生徒には手を出さないってカッコイイ』とか
『振り方が断固としててクールだ』とか・・・
高校生なんてバカだからな、こんなこと言う奴が居ると
そういうのがカッコイイとか勘違いする奴が出て来たりすんだよな。」
「応えるつもり全くないから諦めろって言ったんだけどな・・・」
「なんか裏目に出たみたいだな・・・
まあ、お前ホントに高校の頃から
どこがいいのか知らねえがモテてたな。
だからまあ、こんなのも慣れっこだろ?」
「これ以上何か言ったって、諦めろと言ってそういう反応するんだから
余計面倒なことになる気しかしないから、とりあえずは放置しとく。」
「なーんか、モテ男のセリフみたいでムカつくな!」
「もー、ピンまで面倒くさい事言わないでくれよ・・・」
人に好意を持たれるのが嫌なわけはないんだけど、
恋人になりたいとか、そこまで思いつめて告白とかされんのは
正直なところ面倒くさいとしか思ったことがない。
俺の方からそう思ったことがないからだろうな。
25にもなってマジか!?とか言われそうだから人には言わないが、
事実付き合いたいとか思ったことがない。
黒沼には・・・
なんだかいろいろ特別だなと思ってる黒沼に
たぶん俺はそういうことを思ってしまってる。
付き合いたいとか、恋人になりたいとか・・・
黒沼以外にそんなこと思えるとは思えない。
だけど、黒沼は「山本」同様俺の生徒だ。
『卒業してここの生徒でなくなったら』・・・と山本は言った。
俺の方は25年間、女の子を好きになることなんて無かったんだから
きっとあと三年だって黒沼の他に好きになる異性なんて現れないだろう。
なんか普通にそうだなって思う。
でも、黒沼の方はこれからほぼまるまる三年間、
多感な高校生の時期を過ごすんだ。
誰のことも好きにならないなんてことがあるだろうか?
好きになられることだってあるだろうし・・・
そう言やもう三浦が黒沼を好きだったよな・・・
それにそもそも、黒沼は俺のこと別に好きなわけではない。
委員長としての仕事を真面目にやってくれて、
それ以上に俺の雑用も手伝ってくれて・・・
教師としての俺を慕ってくれてるようには思うけど・・・
15歳の女の子が25のおっさんなんて
恋愛対象として考えたりしないよな。
そう思うと山本ってホント物好きなやつだ。
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