5 風早翔太は嫉妬する。
ふたりで悩みに悩んで買った、淡い空色で僅かに小花が散っている
ワンピースを着た爽子と俺の部屋の前について、鍵を開ける。
「こ、この前はゴメン!今日はホントに絶対何にもしないから入って!!」
と、迎え入れたら、「あ・・・」とか「う・・・」とか言いながら、
なんだかものすごく微妙な顔をして、意を決したように堅い笑顔を作って、
「う、うん・・・わかってるよ。
城ノ内くん来るんだもん、それは、もちろん、うん・・・」って・・・
え?それはどういう・・・
『ジョーが来るんだから、当たり前だろバカですか?』それとも
『ふたりで部屋に居るのにほんとに何もしてくれないの?』・・・
うわ~、そんな訳ないだろ、そんな俺に都合が良すぎること
爽子が思ってるわけ無いって!!
どんだけご都合主義だよ俺の頭!!
頭の中で、壁に10回位頭を打ち付けて額から一筋鮮血垂らしながら、
実際はぎこちなく笑って、
「じゃあ、夕食の準備しよっか。
あんま役に立たないと思うけど俺も手伝うし・・・」って言ったら、
「あっ!」って爽子が鞄を握りしめて固まった。
「え?何?どうしたの?」って訊いたら、
「エプロン、忘れちゃった・・・
風早くんと一緒に選んだワンピ、汚しちゃったらどうしよう~・・・」
って、この世の終わりみたいに嘆いてるから、
「じゃあ、俺のジャージ着る?
俺、ジャージだけはたくさん持ってっから良かったら貸すよ?」
って言ったら
「え?でも汚れるかもしれないんだよ!
風早くんの物を汚しちゃうとか恐れ多くて・・・」
なんて、なんだか恐縮してる。
「俺の実家、スポーツ用品店やってて、
半端なジャージとか送ってくるんだよね。
そうそう、赤くてちょっと俺には小さいのがあったんだ。」と、
部屋の隅に置いたままだったダンボールを開けて
ちょっと掘り起こせば目当ての物は直ぐ見つかった。
「じゃあ、コレ、爽子専用だから汚しても平気でしょ?
俺もこれの青いの普段から着てるからそれに着替えるよ。」
赤いジャージを渡しながら、「おそろい!」って言ったら
爽子も嬉しそうに笑って着替えた。
あ、もちろん俺は部屋で着替えたけど、
爽子は風呂の脱衣所に行ってもらったから。
たまたまこうなったけど、部屋でジャージはくつろげていいよな。
ちょっとまったりしながらもちゃんと夕食は出来上がった。
爽子は凄く手際が良い。
しかも、ちゃんと俺に適度に仕事を割り振ってくれる。
なんか凄いな。
気付けばそろそろジョーが来る時間になってて、
あー、ジョー残業になんないかなーとか・・・
バイトに残業なんて余程のことがないと無いって分かっていながら思う。
そんなこと思ってたらインターホンが鳴った。
ドアを開ければ
「風早ー!はらへったー!メシ――!!」とジョー。
ほんとに遠慮がないっていうか、自由っていうか・・・。
玄関に一歩踏み込んだジョーが、
「わっ!!なに?ふたり、ペアルック?!
おそろい?色違い!?あっつあつ?ベッタベタ!?」
って頭悪そうなことを言う。
恥ずかしがるかと思った爽子が、
「えへへぇ・・・」と嬉しそうに笑っててちょっと意外だった。
「全く!そんな事されたら居辛いじゃん!」と言いつつ
さっさと部屋に上がりこむと食卓につく。
「だめだよ!城之内くん、手洗い、うがいしてからご飯だよ!」
とか言われて、「はーい。」と洗面所に向かうジョー。
なんだろうこの仲良しな感じは・・・。
ううむ・・・さっきまではいい感じだったんだけど、
ジョーが間に入った途端、なんだか
『え?俺の方が彼氏だよね!?仲いいよね!?』って
なんか思っちゃうのはなんでなのかな・・・
手を洗いに行ったジョーを待って
爽子と向い合せに座ってちょっとだけ見つめれば
爽子がにわかに頬染めて恥ずかしそうにうつむく。
『あ、可愛い反応・・・』とか思ってたら
ジョーが戻ってきて横に座った。
しまった!なんで向かい合わせに座っちゃったんだ!
四角いテーブルで先に向かい合わせに座ってたら
あとから来たジョーはまた二人の間に座るしかないじゃん・・・
いや、でも、爽子とジョーが向かい合わせもやっぱ嫌だ。
あー・・・どこに座っても向かいか隣だよあたりまえじゃん!
なんて思いながらも平静を装って食事会を始める。
「あっ!これ、すげー美味いよ、爽子!」って俺が言えば
「うん、うん、マジ美味だよ、貞子!!おかわり!!」って、
ジョー、なんで俺に張り合うの?てか、おかわり早っ!!
そして5度目のおかわり申請でご飯が尽きたらしい。
「次んときはもっとご飯たくさん炊いといてよ、貞子!」って、
どう考えてもお前食い過ぎだろう!って思うのに爽子は
「ごめんね!次はもっといっぱい炊いておくよ!!」って言うし。
そんで次も食事会に参加する気満々かよ!
「あー、俺、次も土曜がいいわ!
仕事上がりにすぐ飯食えて、
しかも準備しなくていいなんて最高だわ!」と
次の予定を勝手に決めて、食うだけ食ったら、
「じゃあ、ごちそうさーん」と帰っていった。
「ホントにジョーと仲いいんだね、なんか妬けちゃうよ・・・」
って思わず言っちゃったら、
「え?ええええっ!?」って目をまんまるにして爽子が驚いた。
「ジョーと喋ってるほうがなんか楽しそうだし・・・。」
と、ちょっと拗ねてしまう。男が拗ねたってみっともないだけだってのに。
「そ、そ、そ、それは・・・城ノ内くんには緊張しないけど、
風早くんには緊張しちゃって・・・
やっぱり好きな人と話すと・・・緊張しちゃって!」
なんて一生懸命言ってくれるから
簡単に俺の気持ちは上々になって
爽子を抱きしめたくなってキスしたくなって・・・
そんな俺を止める人なんてここには誰も居なくって・・・
その夜爽子を帰しそびれてしまったのは
ふたりだけの内緒の出来事・・・
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