22 楽宴
初めて出来た友達とクリスマスパーティー、
とてもとても参加したいのだけど
毎年家族でやっていたパーティーを
お父さんが楽しみにしてくれているのもとても良く分かるし、
それも嬉しい事なのだけど・・・。
とても言い出しにくい・・・。
でも家族三人だけなのだから言えば
「じゃあ日をずらそう。」とか言ってくれそうにも思うんだけど。
どうしよう、言ってみてもいいのかな?
お父さんを悲しませることにならなければいいのだけれど。
教室の掲示板に貼られたクリスマスパーティーの
参加者記入欄を前に悩んでいたら
後ろから三浦くんに声をかけられた。
「風早センセーがさ、貞子ちゃんのために
参加するって言ってくれたんだよー。
だから貞子ちゃんも頑張って
家の人の許可もらって参加しようよー。」
「え?風早先生も参加されるの?!」
「だからさー・・・」
「う・・・うん!そうだね!言いにくいからって先延ばしにして
ホント言うともう諦めようかななんて思いかけてたんだけど・・・。
やっぱり行きたい!私頑張ってみる!!」
「貞子ちゃん・・・健気だねー。
・・・やっぱ風早センセーなんだねー。」
そして、頑張った結果私は今カラオケ屋さんに
クラスのみんなと一緒に居るのです!
そこには風早先生も!!
もうクリスマスパーティーが始まってかれこれ一時間になるのだけれど
実はまだ先生と一言も言葉を交わせていない。
うん、わかってる。
先生は副担任としてこのパーティーに参加して居るのだし
いつだって人気者だからあちこちから引っ張りだこだ。
こういう場に先生が来てくれるなんてなかなかないことだから
みんなだって先生と居たいんだ、とてもよくわかる。
時々先生が申し訳無さそうにこちらを見ているのに気づいて
『気にしないで。』と伝えたくて、
でもどんな顔すればいいのかわからなくて
なんだか曖昧な笑顔(?)を返す。
「ちょっと風早、引っ張ってこようか!」ってあやねちゃんが
明らかに気を使って言ってくれるから
「いいの。あちこちから引っ張られて大変そうだから
私は今日は先生を見ていられるだけで幸せだから。」
と言ったら
「爽子が何を遠慮することがあるのよ!
ほかの奴らちょっとは遠慮しろって言うのよ!」
と私のために怒ってくれる。
「私は今日はちづちゃんとあやねちゃんと一緒に
パーティーに参加できただけでとても幸せだよ。
その上、先生のことも見ていられるし
これ以上望んだら罰が当たっちゃうよ。」
と言えば「「さわこ~~!」」って言いながら
ちづちゃんとあやねちゃんが両側から抱きしめてくれる。
こんなふうに抱きしめてくれる友だちができるなんて
入学当時は考えもしなかった。
「私は幸せ者だよ~。」って言えばさらにギュ~っと
抱きしめられて嬉し涙が出てしまった。
「ちょっとあやねちゃん!
風早センセーがすごい目で見てるよ!」と
三浦くんがあやねちゃんに耳打ちした。
「なによ、文句があるなら自分もやればいいのよ!
あたしたちがあたしたちの大好きな爽子を抱きしめて
何が悪いってのよ!」
「・・・羨ましいなあ、貞子ちゃん・・・
俺もあやねちゃんに大好きって言ってほしいなあ・・・。」
「・・・何を気持ち悪いこと言ってんのよケント。」
「あ、その理屈で行くと俺はあやねちゃんのこと大好きだから
あやねちゃんを抱きしめてもいいってことになるよね?」
「は!?なにそれ、初耳なんだけど!
えっと、それ、いいってことにならないからね!」
「彼氏がいるのは知ってるんだけどさ、
困らせちゃったら申し訳ないんだけど・・・
せっかくクリスマスだからさ
俺の気持ちだけ知っといて欲しくてさ。」
「あー・・・彼氏はー・・・居たらここに居ないっての。」
「え!?大学生の彼氏に困惑するくらい愛されてるんじゃ・・・。」
「うっとおしくなって、別れたいってメールしたらそれっきり。
返事も来ないの。そんなもんなのよあたしの彼氏なんて。
・・・あー、もう、こんな話こんなところでしたくないんだから!」
「「ええっ!?」」
私とちづちゃんは絶句した。
あやねちゃん、彼氏さんとは別の日にクリスマスするのかと
勝手に思っていたのだけどそんなことになっていたなんて。
「なんで黙ってたのさ、やのちん!!」とちづちゃんが言えば、
「こんなうっとおしい話、すすんでしたいわけ無いじゃない。
もともと別れたかったんだからいいのよ。
今日は楽しみに来たんだからこの話はおしまい!」と
あやねちゃんが締めたので
三浦くんの告白は宙ぶらりんになってしまった。
ちょっと情けない顔をした三浦くんを見てあやねちゃんが言った。
「あ・・・後でちゃんと返事するよ。
うん、ありがとう。嬉しいよそう言ってくれて。」
「あー・・・ごめんね、こんなところで言って。」
「そうよ、こんな大勢の前で言われても困るわよ。」
そういうあやねちゃんを見て
三浦くんは断られてしまうのかなと思った。
だって好きな人に好きだって言ってもらえたら
天にも昇る気持ちで冷静でなんていれなくて
喜びを押さえられないって感じになると思うけど、
あやねちゃんはとてもそうは見えないから・・・。
ちょっと変な雰囲気になりかけたパーティーだけど
その後当事者の三浦くんと先生が頑張って盛り上げてくれて
(風早先生、さすがだなあ!!!)
楽しいパーティーは終わりの時間を迎えた。
二次会と言うのがあるらしいけれど
5時から2時間の約束で来た私は帰ることにした。
初めてこういう集まりに参加できて
今日は2時間で十分だと思う。
「え~、先生帰っちゃうの~?」
「後は好きにしてくれ。俺は帰るけどあんま遅くなんなよ!」
と風早先生の声が聞こえる。
先生もここで帰るみたい。
みんなが二次会に行ってしまうと先生が送ると言ってくれて
「え?そんな悪いですよ。大丈夫です、ひとりで帰れます!」
って言ったら
「こんな暗いのに婚約者を独りでなんて帰すわけ無いだろ!」
とちょっと怒られてしまった。
「あのさ・・・ちょっとドライブ付き合ってくれる?」と言われて
「へ?!」と間の抜けた返事をしてしまった。
「近くのパーキングに車停めてあるんだ。
カッコいいクルマなら様になったんだけど
実家の仕事で使ってる車で店の名前とか書いてあって
全然カッコよくないんだけどな・・・。」
と、連れて行かれたコインパーキングには
車のドアに『ウィンドスポーツ』と書かれた
荷物がたくさん乗りそうな大きめの車が停まっていた。
「風早先生車乗れるんですね!」と言えば
「25にもなったら普通免許くらいは持ってるよ。
まあ、ほかには教員免許くらいしか持ってないけどな。
あ、門限とかあるかな?」と訊かれた。
「お父さんが9時過ぎるようなら電話しなさいって。」
「わかった。9時までには送り届けるから。」
そう言って助手席側のドアを開けてくれた。
「お邪魔します。」と緊張しつつシートに座る。
前から回りこんできて先生がなめらかな動作で運転席に座り
シートベルトをしようとして、私がただ座っていることに気づいて
「あ、黒沼もシートベルトしてね。」と言った。
「あ、シートベルトですね!」と慌ててベルトを引っ張りだそうとしたら
ガチッと音がして出てこなくなってしまい焦って
「あ、あの、シートベルトって・・・。」と口ごもっていたら
「黒沼のお父さんは車には乗られないのかな?
シートベルトって早く引っ張ると止まるようになってるんだよ。
こうやってゆっくり引けば・・・。」と運転席から身を乗り出して
私の左肩のあたりにあるベルトの金具を引っ張って見せてくれた。
覆いかぶさるようなその体制に思わず身を固くしていると
先生が私の方を向いてその近さに驚いた。
「うわっ!ご、ごめん!!そういうつもりじゃなくて!」と
慌てて運転席に戻った。
「や、ホントにそういう意図で車に載せたんじゃないんだ!」
「あ、わかってます!大丈夫です!
えっと・・・ゆっくり引っ張って、ここに差し込むんですね。」
「うん、そう、カチっていったらOKだから。」と
先生が顔を真っ赤にしている。
多分私の顔も真っ赤なんだろう、すごく熱い。
「30分位、俺に付き合って。」と
深呼吸しながら先生は車を発進させた。
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