4 確実に俺、魂抜かれちゃってます。
目覚ましにしてるスマホの着メロが延々と鳴ってる。
ああ、諦めて切れたー・・・
そして再び鳴り始める、5分経ったんだなー・・・
いい加減に起きようかー・・・
「おはよう!風早さん!朝ですよ~!」
え?誰の声・・・と思った数秒後、
俺はいきなり昨日の夜のことを思い出してガバっと起き上がった・・・
ら、ゴチッって鈍い音がして、再びベッドへ沈み込んだ。
額がかなり痛い。
「痛てて・・・」と言ったら、
「だ、大丈夫ですか!?あああ・・・おでこが真っ赤~!」
ああ、そうだ!黒沼さんだ!!
「そういう黒沼さんこそおでこ真っ赤だよ!大丈夫?」
あれ?ってことは、俺と黒沼さんの額同士がぶつかった?
なんでそんなことに??
「全然大丈夫です!
ごめんなさいね、朝の挨拶をと思っただけなのですが・・・」
そう言って俺の右頬に軽く唇を押し当てて直ぐ離れた。
「おはようのキスで目覚める・・・んですよね?」
「え?え?え?ごめん!俺はそういう習慣、ない!!」
驚いて右頬を抑えて後ずさるとベッドの横の壁に背中があたった。
血流が頭に押し寄せる。
俺、もう額が赤いのなんて分かんないんじゃないだろうか?
「えっ!?そうなの!?
あわわ・・・不快に思ったのならごめんなさい~。」
「いやいやいや!そんなこと無いよ!むしろありがとう!」
『むしろありがとう』ってなんだよ、スケベ丸出しか!?
『そういう習慣、ない!!』なんて言わなきゃ
毎日キスで起こしてもらえ・・・いやいやいや、嘘は駄目だ!
確かに俺にそういう習慣はないんだから!
「あの、気を取り直して、朝ごはん食べませんか?」
そう言って勧められたローテーブルの上の朝ごはんは
高級なレストランのモーニングってこんなんなんじゃないの?
って感じの豪華さで、いや、高級レストランにモーニングなんか
あるのかどうか知らないけど、思わず「すげー・・・」って言っちゃった。
「じゃ、遠慮なく頂きます。」と、食べ始める。
朝からこれ作るの大変だったんじゃないかと思ったから、
「朝からそんなに頑張んなくっていいよ。」って言ったら、
「朝食は一日の活力源ですからちゃんと食べなきゃダメなんです!
それに・・・お昼は学校で食べるでしょ?
夜はバイト先とかで食べること多いよね?
御飯作るって言ったけど、朝ごはんくらいしか食べてもらえないから
迷惑じゃなければ作らせて欲しいの・・・ダメかな?」
上目遣いに俺の顔を覗きこんで返事を待ってる黒沼さんが
とてつもなく可愛くて、どーしていいか分かんないくらい可愛くて、
もしかしたら『黒沼さんが可愛く見える魔法』とか、
かけられてるんじゃないかと思うくらい。
いやいや、分かってる!黒沼さんはそんなことに魔法使ったりしないよな。
客観的に見たら多分黒沼さんは、アイドルみたいに可愛いわけでも、
特別美人なわけでもないとは思うんだけど、
どーして俺にはこんなに可愛く見えてしまうんだろうか・・・?
本日二度目の赤面・・・思いの外、黒沼さんとの同居は心臓に悪そうだ。
「じゃあ、黒沼さんの負担にならない程度に頑張って作ってよ。
それに、晩御飯も、自分で作んのが面倒だからバイト先とかで
適当に食ってたけど、黒沼さんが作ってくれるんなら
絶対家で食べるからさ、俺!一緒に食べようよ!!
俺、今日夕方のバイト休みだから講義が終わったらすぐ帰ってくるからさ、
一緒に晩御飯の買物行こうよ!」って言ったら、
「ホ、ホントに?いいのー?嬉しいよ!待ってるからね!
うわー、風早さんとお買い物だなんて、夢みたい!!」って、
喜んでくれてるみたいなんで、俺も嬉しくなってしまう。
たくさんあるなー、と思ってた朝食をいつの間にか全部平らげてて、
朝からこんなに食べれるなんてと我ながら驚く。
多分黒沼さんの料理だからなんだろう。
身支度を整えて家を出ようとすると、
「気をつけて行ってらっしゃい。」と
黒沼さんが見送ってくれた。
『ナニコレ、新婚さん!?』とか思ったら、
本日三度目の赤面をしてしまった。
ドアを閉めて歩き出すが、
こーゆーのを後ろ髪惹かれる思いとか言うんだろう。
今出たばっかりなのに、もう一度黒沼さんのいる部屋に引き返して、
ず――っと黒沼さんと一緒にいたいなんて思ってしまう。
ああ、俺もう十分魂抜かれちゃってるなー。
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