7 ホントにそれでいいなら俺的にはご褒美です。
今日は夕方のバイトが入っていたので
21時半頃、腹ぺこで帰宅。
インターホンを鳴らすと中からパタパタと走ってくる音。
ドアがガチャっと開いて、
「おかえりなさい!翔太くん!!」と
キラキラした笑顔で爽子が迎えてくれる。
バイトの疲れなんか吹っ飛ぶってもんだ!!
ジョーの言うデレデレした顔をしていることだろうと
だめだ、だめだ、とキリッと顔を引き締めてみる、無駄かもしれないけど。
「爽子。いきなりドア開けちゃ駄目だよ!
ちゃんと俺かどうか確認してからじゃないと危ないんだから!!」
「え?あ!ごめんなさい。
昨日と違って、時間が長くて、翔太くんの帰りが待ち遠しくて・・・」
「え?・・・あ、ありがと・・・」
あーもー・・・爽子はずるい。
そんなこと言われたら俺がどれくらい嬉しいか知ってるんだろうか?
「あの・・・お仕事で汗かいてるなら先にシャワーしたいかな?
お腹すいてるならご飯からでもいいよ。
どっちがいいかな?」
・・・!――また、なにその新婚さんみたいなセリフは・・・
うん、分かってるよ・・・
爽子はそれが新婚さんみたいとか知るわけ無いって。
ただどっちを先にするかって訊いただけだよな・・・
「えっと・・・翔太くん?」
「あ、ごめん!えっと、腹ぺこなんでご飯を先にしてもらっていい?
汗臭かったらゴメンだけど・・・」
「あ、大丈夫だよ!私、翔太くんの汗の匂いも好きだよ!」
――!うわー、もう、撃沈だよ、どうしたらいいの俺。
そんなこと言ってくれちゃったら、もう完敗です。
まあ、一度だって爽子に勝ったことなんてありはしないんだけどさ!
とりあえず晩御飯を美味しく食べさせてもらって・・・
例の相談を爽子に持ちかけてみる。
「と、とんでもないご迷惑を・・・」って恐縮しはじめてしまう。
「迷惑なんかじゃないし、謝って欲しいんでもないからね!
でも、爽子の存在を知られてしまったから、
爽子がここにいるそれらしい理由が必要になって。
ホントの事言う訳にはいかないしさ。
嘘つくの、嫌だとは思うんだけど・・・」
「ある程度嘘をつかなくてはならないことは私にも分かってます・・・
こんな面倒な状況を持ち込んだのは私のほうだし、
翔太くんがそんなふうに申し訳無さそうにすることは全然ないよ。
翔太くんにだけは嘘をつきたくなくて、本当のこと言ってしまって
結局はややこしいことに巻き込んでしまって
申し訳ないのは私の方なんだよ。」
またそんな、俺が爽子にとって特別みたいなこと言って・・・
俺、馬鹿みたいに嬉しくなっちゃうから。
「それで・・・その・・・現状に一番近いと周りに見てもらえる
私達の関係を捏造するとしたら、やっぱり・・・
恋人同士で同棲中ということにするのがきっと一番
しっくり来るのではないかなとは思うんですけども・・・・
――でも、これは、翔太くんにとても迷惑がかかるし、
い、嫌だよね!嫌だよね!嫌だよね!
や、やっぱりもう少し別の状況を模索してみ・・・」
「俺はいいよ!爽子がそれでいいなら、俺は全然構わないよ!!」
「え!?いいの?私と恋人のフリしなきゃならないかもしれないんだよ?」
「恋人同士のフリできるなんてむしろ嬉しい!」
「え?翔太くんそう言うのわりと好きだったりするのかな?
だったらよかったけど!」
爽子って時々、悪魔だからかなんなのか、ちょっとずれてると思う。
恋人同士のフリするのが好きなわけ無いだろう・・・
恋人同士のフリするのが好きってなんだよそれ、何プレイ?
恋人同士みたいに振る舞うことが出来るのがちょっと嬉しいって、
そんなこと分かってもらっても・・・仕方ないか・・・
「じゃあ、今日、俺が好きだと言ったら爽子が答えてくれて
恋人になったってことにしてくれる?」
「え?う、うん!・・・告白だね!!いいね!!」
「して欲しい?」
「え?」
「俺、爽子が好きだ。・・・爽子は?」
「え?あ・・・もちろん、私も翔太君が大好きだよ!」
「俺と付き合ってください。」
「はい!喜んで!!こちらこそよろしくお願いします!」
こんな芝居にさえ極上の笑みで答えてくれる。
ちょっとほんとなんじゃないかって錯覚してしまう。
だけどニコニコ笑いながら爽子がポツリと言う。
「翔太くんってこだわり派だね~、うふふ・・・」
そんな爽子が可愛いけど、心底恨めしい。
ああ、こういうところが悪魔なんですか、爽子さん・・・
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