11 俺が爽子に初めてのこといっぱい教えてあげるよ。
この界隈の俺達がお昼に行けそうな飲食店をあらかたクリアした頃、
もう一度爽子に、今度はこう訊いてみた。
「爽子さ、何処か遊びに行きたいところってある?」
「遊びに行く・・・っていうのは、どういうことかな?」
「そうだな、例えば・・・映画に行くとか、遊園地行くとか、泳ぎに行くとか、
・・・そんな、食事以外のことで出かけるってことかな。」
「・・・たのしそうだね、いいね!!私はどれひとつとしてしたことがないから、
出来れば全部してみたい!」
「あ、そうか・・・こういうこっちの世界のことは初めてのことばかりなんだね。」
「うん・・・翔太くんのところに来てから、初めてがいっぱいなんだよ。
誰かのためにバースディケーキ焼いたのも、
朝、起こしてあげるのも、ほっぺにキスしたのも、合鍵を貰ったのも、
・・・全部嬉しい初めてだったよ。
あ、でも、ほっぺにキスは翔太くんには迷惑だったよね、ごめんね。」
「え!?違うよ!迷惑なんかじゃないよ!
あの時はいきなりでびっくりしたけど、俺だって嬉しかった!
『そういう習慣がない』のは嘘じゃないけど・・・
言わなきゃ良かったって後悔してました、マジで・・・」
「あの・・・それは、またしてもいいってことでしょうか?」
「でも、爽子はしたくてしたんじゃないんじゃないの?
習慣だと思ったからやらなくちゃって、
使命感みたいな感じでなんじゃないの?」
「違うよ。素敵な習慣だなって思ったから、やってみようって思ったんだよ。」
「爽子さえ良かったらキスで起こしてもらえたら、
俺、毎朝凄く気持ちよく起きれそう!」
「ホ、ホント?じゃ、じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」
「明日から朝が楽しみだなー・・・」
「あ、あれ?でも、夏休み中は起こさなくていいんじゃ・・・」
「キスで起こしてもらえるならどんどん起こして!」
「え?え?・・・」
「あ――えっと、それで、今日だけど、とりあえず映画に行く?」
「うん!映画・・・映画って何?」
「あー、そこからかー・・・まあ、行けば分かるよ。」
何を見るか訊いたところで分からないだろうから
今一番人気があるらしい恋愛系の映画にする。
一見カップルの俺達が恋愛物を見るのはちょっと照れくさいけど
普通、女の子ならアクション系よりはこっちだろうと思って。
悪魔に恋愛感情がなかったら意味不明だと思うかもしれないけど。
そんなことを思いながら見た映画だったんだけど、
爽子は終わる頃には大号泣してくれていた。
これだけ感動してくれたら見せた甲斐もあるってものだ。
俺はどうやら爽子に恋愛感情があるらしいってことに感動だ。
たぶんまだ物語に共感できる程度なんだろうけれど。
夏休みに入ってから今までと違って凄い速度で
爽子のいろんなことが分かって凄く嬉しい。
爽子が食べてみたかったもの、やってみたかったこと、
思ってたこと、考えてたこと、俺が思ってたのと違ったこと・・・
爽子の何を知っても、知れば知るほどまだまだ好きになる。
まだたかだか3ヶ月でこれでは、一年経ったら
俺、本当に魂が抜けたみたいになっちゃうんじゃないかな。
その時爽子に去られてしまったら、俺廃人になっちゃうかも・・・
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