少し安心したら、急に空腹なのを思い出した。
そういえば昼飯食いそびれてた。
帰り道でコンビニに寄って菓子パンと缶コーヒーを二個買って、マルを拾った河原に向かう。
黒沼は今日、昼休みに花壇の手入れができてないから、放課後にやってからくるだろう。
もしかしたらまた誰か先生に捕まって用事を言いつけられたりしてるかも。
まあ、気長に待とう。
ちょっと空模様と黒沼の様子は心配だけど。
どうせ考えたってわからない。
黒沼と話せばわかることなんだから、焦ることもないよな。
今日、仮に俺の話したい話ができなくったって、
黒沼の思いを理解して、それからゆっくりで大丈夫。
そもそもこんな話まだまだできるとは思ってなかったんだから。
パンを食べて、缶コーヒーを開けて、一缶飲み終える頃、俺を呼ぶ声がした。
「思ったより早かったんだね。花壇に水あげてきた?」
「うん・・・あやねちゃんとちづちゃんが手伝ってくれて・・・」
「そっか・・・昼休みの時間貰っちゃってごめんね。
で、また来てもらって・・・来てくれてありがとう。」
「ううん・・・ううん・・・私の方こそありがとう。
ちゃんと話をしてくれようとしてくれて・・・。」
「改めて、もう一回言うけど、俺、黒沼が好きだ。
く、黒沼も俺のこと、好きだって言ってくれて、ありがとう。
すっげー嬉しかった。」
「・・・それで・・・あの・・・大事なことって・・・
やっぱり協定のことじゃないんだよね?」
「え?・・・協定?って・・・なんの?」
「わあ・・・ほんとに風早くん本人は知らないんだ。あやねちゃん凄いな!」
「俺に関係有ることなの?なんか凄い気になるんだけど・・・」
「ちづちゃんにね、聞いた話なんだけど、
中学の時に、風早くんを好きな娘が沢山いすぎて、
告白とかして女子同士の仲が悪くなったりするよりも、
誰も告白なんかしないで、『風早君はみんなのもの』だよ
っていうことにしようって協定がむすばれたそうなの。」
「は?え?何?その、なんか、凄い話・・・協定が結ばれたって・・・ええっ?!
俺がみんなのものって・・・なんだよそれ!」
「私、お昼休みに告白しちゃったから、
もしかしたら協定違反しちゃったのかと思って・・・。
そしたら、ちづちゃんとあやねちゃんは
中学の時の話だから私には関係ないって・・・。」
「ち、ちょっと待って!
告白したのは俺で、
黒沼は返事をくれたんでしょ!
その協定だか何だかしらないけど、
俺が誰のものかなんて勝手に決められても困る。」
「わ、わ・・・あの、怒ってるの?」
「はあ・・・。うん。その協定とか言ってる奴らには確かにムカつくけど、
黒沼に怒ってるんじゃないから。
ああ、もう、なんか、話そうと思ってたことからずれちゃったから、元に戻すよ。
俺が黒沼にしたかった大事な話をさせて。」
「そ、そうだよね。『なんだろう。』って考えずに、
素直に風早くんから聞けばいいんだよね。」
話を聞こうと、居住まいを正す黒沼をみていたら、
わけのわからない話でちょっと苛立っていた気持ちが静まってくる。
口を開きかけたところに、頭の天辺に冷たい感覚。
足元に黒い小さな丸い模様がみるみる広がる。
なんか空模様が怪しいと思ってたらやっぱり来た。夕立だ。
二人分のかばんを左の小脇に抱えて、右手で黒沼の手をとって、
「こっち。」と、移動を促す。
手近な橋の下に逃げ込むと、みるみる雨脚は強くなった。
相変わらずすぐに邪魔が入るのはどういうわけなんだろう。
でも案外悪い状況でもないと気がついた。
俺、黒沼の手握っちゃってるし、
結構な雨脚のお陰で人目のない空間に二人で閉じ込められてる。
「えっと・・・じゃあ最初からもう一回・・・
俺、黒沼が好きだ。
く、黒沼も俺のこと、好きだって言ってくれて、ありがとう。
すっげー嬉しかった。」
「わ、私も・・・すごくすごく・・・嬉しかった・・・です・・・。」
「まだ、黒沼は考えられないのかもしれないけど・・・
少しづつでもいいから考えて欲しいんだ。
俺と付き合うこと。
俺の彼女になること。」
「わ、私・・・?本当に私で・・・いいの?」
「俺が黒沼を好きなの。
俺が黒沼と付き合いたいの。
俺が黒沼に彼女になってほしいの。
何度でも言うよ!」
「ええっ?!何度も言わせるなんてそんなもったいない!」
「『うん。』って言って!そしたら、キスして抱きしめたい!」
「ええええ~!!!」
「だって折角、お互いがファーストキスの相手になれたと思ったのに
ノーカウントだとか言うし、もうちゃんと気持ち伝え合ったから
そのつもりでキスして、しっかりファーストキスにカウントして貰っとかないと!」
一応俺のかばんが下になるようにふたつまとめて邪魔なかばんを地面に落とす。
繋いだ手を手繰り寄せて黒沼を捕まえて、
黒沼の顔を覗きこんで、しっかりと目線を合わせて、
真っ赤な顔の黒沼に、言い含めるようにゆっくり言う。
「キスするからね。ちゃんと確認して。俺だから・・・」
「か、確認・・・確認・・・しました!」
「俺は誰?」
「か、風早くん・・・です!」
「うん・・・俺だって確認できたら、目を閉じて・・・」
なんて、カッコつけて言ってるけど、心臓はバクバクいってるし、
顔を近づけたら鼻がぶつかるし、唇を合わせようとしたら歯がぶつかった。
うわー、俺カッコ悪い。
ついふらふらっとしちゃった時はうまく出来たような気がするのに・・・
「ご、ご、ご、ごめん!い、痛かったよな!
ヘタでごめん・・・ああ、もう、かっこわりー・・・」
「あ、謝らないで!今だって心臓爆発しそうなのに、
上手にされたりしたら・・・死んじゃうかも・・・」
なんかもー、黒沼が可愛くってしょうがなくって、
ギュッと抱きしめて、もう一度そっと唇を重ねた。
今度は大丈夫、ぶつからなかった。
「あ、あれ?俺、黒沼に『うん。』って言ってもらってない!!」
「え?あれ?あの、その・・・もちろん、その・・・
もったいないお言葉、あ、ありがとうございます。」
「俺と付き合ってください!」
「『うん・・・』」
END